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ペットを守るはずの「新ルール」で“引退繁殖犬”の遺棄が増加するジレンマ、日本に欠けた動物福祉の視点

“繁殖犬”をご存じだろうか。ペットショップに並ぶ可愛い子犬たちの母親の中には、劣悪な環境で、子犬を産むだけの道具として扱われている繁殖犬がいる。そんな状況を改善して、悪徳ブリーダーを排除するための法律改正で、新たに“引退繁殖犬”に関する問題が生まれている。連載『ウェルビーイングの新潮流』第8回では、今の日本にもっと必要な「アニマルウェルフェア(動物福祉)」について考える。



悪徳ブリーダーを排除するため繁殖犬の生涯出産回数は6回に


 2021年6月1日に施行された改正動物愛護管理法(以降、動物愛護法)が、今年6月に3年間の経過措置を経て完全施行されました。


 動物愛護法とは、動物の健康、安全の保持のために適切な取り扱い方法を定めた法律です。20年7月に示された改正案では、ブリーダーやペットショップが飼養できる頭数、1頭が繁殖回数や交配できる年齢の上限、飼養用のケージの大きさの下限が変更されました。


 今回の法律改正の主な目的は、一部業者の劣悪な飼育状況を改善し、悪質なブリーダーを排除することです。狭いケージに犬を閉じ込めて十分な世話をせず、劣悪な環境で繁殖を行う事業者が相次いで摘発されてきました。声帯を切ったり、麻酔なしで帝王切開して子犬を取り出すなどの卑劣な行為も報告されています。


 しかし、21年の施行に当たり、ペット業界から「多くのペットが行き場を失う」「犬猫の殺処分が増える」「業者が廃業に追い込まれる」などの反対の声が広がったため、飼育頭数の上限の改正は約3年間延期され、24年6月から完全施行されることとなりました。


 結果、経過措置として、スタッフ一人当たりの繁殖犬の数は、22年6月からは25頭まで、23年6月からは20頭まで、24年6月からは15頭までと、段階的に制限していきました。 


 今回の改正では、犬の生涯出産回数は6回まで、交配できる年齢は原則6歳までと定められています。動物愛護の世論の高まりから決められた繁殖制限ですが、実はこれが今問題となっている相次ぐ犬の遺棄の原因の一つになっているといわれています。


 ブリーダーは、法改正以前であれば繁殖犬として飼養していた犬を、数値規制によって引退させなければならなくなり、その結果「繁殖引退犬」がどんどん増えている状況なのです。


 現在、この繁殖引退犬は10万頭以上いるともいわれています。



小型犬3匹をビニール袋で窒息死81歳の元ブリーダーの身勝手な言い分


 繁殖の期間を終えた犬にも、エサ代や光熱費がかかります。これまでは役目を終えた繁殖犬の面倒を最後まで見てきたブリーダーでも、飼育できる頭数に制限ができたことによって経営が悪化し、手放さざるを得なくなるというケースが増えています。


 手放された繁殖引退犬の受け皿は、動物愛護団体やシェルター頼みなのが現状です。


 この法律が施行された21年には13万頭以上の繁殖引退の犬や猫が出ると試算されていたのですから、この猶予期間にペット業界も行政もそれに対するセーフティーネットとなる対策を十分に検討する必要があったのではないでしょうか。


 実際にブリーダーから手放され、行き場を失った繁殖引退犬が、山に捨てられたとみられるケースが全国各地で報告されています。


 もっと痛ましい事例としては、今年6月に埼玉県でポメラニアンやトイプードルなど小型犬3匹を生きたままビニール袋に入れて窒息させ、殺したとして、埼玉県の81歳の元ブリーダーの男が逮捕されたという事件も報道されています。理由は「(犬たちが)生きていると経費がかかる。責任を取るつもりだった」という、なんとも身勝手な言い分です。


 今回の一連の法改正に関わる全ての当事者に求められるのが、「アニマルウェルフェア(動物福祉)」という考え方です。動物が肉体的・精神的に十分に健康で環境に調和していること、というペットのウェルビーイングを重視するこの考え方は、海外ではすでに当たり前のこととなっています。


 例えば、ドイツでは飼育環境に厳しい基準を設けることで、ペットショップでの犬の販売が抑制されています。また、フランスでは24年から、保護されたものを除く犬・猫 のペットショップでの販売が禁止されました。


 前述した繁殖引退犬についても、その後の幸せな生活まで考えていかなければなりません。譲渡会などで新しい飼い主が見つかったとしても、重要なのはその後の飼い主との長きにわたる共同生活です。



ケージで飼育されてきた繁殖犬が人間と新たな生活に馴染むために


 小型犬なら6歳で引退したとして、引き取られた後平均すると7~8年は生きることになります。多くの繁殖犬はずっとケージの中で飼育され、首輪を着けて散歩をしたこともありません。部屋でのトイレを訓練をする必要もあります。環境ががらっと変わり、新たな生活になじむ必要があるのです。


(インテグレート代表取締役CEO 藤田康人)



Diamond Onlineより


 
 
 

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